delimiter

ハリー・ボッシュとジャズ

Michael Connelly のハリー・ボッシュ・シリーズは、いわゆる刑事モノの犯罪小説で、90年代から長く続いている。ロサンゼルスを舞台に、正義感が強い元軍人の警官ボッシュが、いくつもの事件を解決する。 Amazon Prime で、Amazonオリジナルのドラマ「BOSCH」としても配信されていて、こちらも人気が高い。 Amazonドラマは原作に忠実ではない。 例えば、小説で描かれる風景は90年代だ。携帯電話は無い。「ちょっと署に電話をかけさせてもらえませんか」といって被害者や容疑者の家に押し入って電話を使わせてもらう。そしてこっそり盗聴器までしかけちゃうのだ。 プロットや登場人物も、大きく変わっている。ざっくりしたキーワード、事件の概略、人物像や名前は共通するものの、犯人や被害者も大きく違うので注意しないといけない。 シーズン中にいくつもの事件を並行してかかえる忙しさは共通している。基本、寝不足だ。たびたび「一度に複数の事件を担当するわけにはいきません」のようなことを口にするわりに、だいたい複数かかえるはめになっている。


わたしは、はじめは小説を知らずにドラマから入ったが、のちに小説もほとんど買った。もともとミステリが好きだったこともあり、見事にハマってしまった。 これ以降、ハードボイルド系が好きになる。


ボッシュ・シリーズは、ジャズと深い関係がある。小説もドラマも、ジャズ・ファンが思わずフフフとなるような細かいネタがいくつも仕込まれている。


ドラマでは、たびたび「チャーリー・パーカー」とか「ロン・カーター」とか「アート・ペッパー」とか、ジャズ奏者の名前が出てくる。ラジカセとかレコードでたびたびジャズが流れるし、ジャズ・バーのシーンもある。 それから、犬の名前が「コルトレーン」だ。もちろんジョン・コルトレーン(John Coltrane)が由来だろう。


続編となるスピンオフ・ドラマ「ボッシュ: 受け継がれるもの」では、冒頭、私立探偵のボッシュが調査をしているシーンで、とつぜん大音量の「Salt Peanuts」が流れる。(自分のパソコンで間違って再生したのかと思い焦った。)登場人物同士がジャズの話で盛り上がるのを見てフフフとなる。


小説「素晴らしき世界」(原題「Dark Sacred Night」)は、タイトルだけで、わかる人にはわかる。「Dark Sacred Night」は、ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)の大ヒット曲「What a Wonderful World」(素晴らしき世界)の2番の歌詞だ。 すでにシリーズの他の巻で「暗く聖なる夜」という和訳を使ってしまったために、この邦題にしたのだそうだ。 しかし、作中で人物が「What a wonderful world」と叫ぶシーンがあるので、ちゃんとマッチしている。


最近の小説でも、捜査に行き詰まっているボッシュは突然気づく。「そういえば、チャールズ・ミンガスのアルバム・ジャケット写真はみんな横を向いているけど、これは違う」という具合に。ちなみに事件には関係ない。