でんしゃ。バイロン・バートン (Byron Barton) の絵本
https://www.amazon.co.jp/dp/4323019211/
子がいま乗り物にハマっているので、この本はお気に入りだ。シンプルでわかりやすい色とシェイプで電車を描いている絵本だ。
この本を読んでいて、気になったことがある。架線がある線路と、無い線路があるようで、それを描き分けているように見える。そもそも、電車は架線から電力供給を受けるのではないのか?なぜ架線が無いのか? まず当然だが、蒸気機関車については、架線が無い。この絵本で唯一架線があるのは、日本の各駅停車みたいな四角い電車だけだ。そもそも、架線無しでどうやって走るというのか。
調べてみると、第三軌条方式とか、サードレールと呼ばれる電力共有方式があることがわかった。 サードレールは、走行用レールのほかに、給電用レールを地面に敷設する方式だ。2本の走行用レールがGNDであることは架線方式と変わらない。このサードレールには、車輪は乗らないので、素材や耐久力など、まったく違うスペックのレールが求められることになる。 サードレール方式では、架線を設置しないことによるメリットを受けられる。
- 景観を守る
- 自然災害への耐性
- 安価
- トンネル断面積を小さくできる
また、以下のようなデメリットがある。
- 安全性への配慮が必要
- 高圧電流が低い場所を流れる。
- 特に日本では、地下鉄や高架などでしか使うことができない。
- 電圧に制限がある
- あまり速度を出せない
- 共有が途切れる場所が必ずある。ポイント切り替えなど。
- 電車本体に、電力を補う仕組みが必要となる
- 相互運用性の低下。架線の電車と、サードレールの電車は、相互に乗り入れできない。
なるほど・・・。 海外では渓谷や山間部でも使われそうなイメージだが、日本では、かなり限られた場所でしか使えない。それに、相互運用できないのは、たしかに大きなデメリットだと感じる。 首都圏では、銀座線や丸の内線がこの方式らしい。どちらも古い路線だ。つまり、これらの路線には、他路線からの乗り入れができないということだ。もとより銀座線はトンネル高が低いから、そもそも電車が入らないのだろう。
絵本に戻る。 この「架線がない電車」、普通に住宅地や踏切を走っている。これは危険すぎるのではないだろうか。それから、パワーが必要なはずの貨物列車も、架線無しで描かれている。電圧は大丈夫なのだろうか。うーん、ここは、フィクションということだろうか。あるいは、海外の事情(著者はアメリカ出身)は異なるということなのだろうか?わからない。
さて、 この話を何気なく義父にしたところ、いくつか興味深い話を聞くことができた。
鉄道模型の世界でも、給電方式にはバリエーションがあり、各社バラバラなのだ。たとえば、ドイツのメーカーでは、架線が直流+で、両レールが直流-という方式をとっている。しかし、日本の別のメーカーでは、レール(車輪)のうち片方が直流+、片方が直流-となっている。この場合、両輪の間を絶縁しておかないとショートするので、模型の構造に注意が必要だし、事故りやすい設計だと思う。前述のドイツ製車両をこの日本のレールに載せると、ふつうにショートする。
それから、絵本の列車は、ディーゼルの可能性もあるとのこと。なるほど・・・パワーが必要な貨物列車はそうかもしれない。では、表紙の赤い車両はどうだろう。絵本のタイトルは「でんしゃ」だが、そういえば原題は「Trains」だな。これを直訳しただけで、エネルギー源のことは深く考えていない気もする。 日本では、似たフォルムの車両は特急列車のイメージが強いのだが、映像番組「世界の社窓から」を見ていると、ヨーロッパでこんなフォルムの車両が小さく煙(排気ガス)を上げながら走っているのを見ることがある。やはりディーゼルか。
その後話題は銀座線の昔話、世界大戦、日露戦争、と違った方向に脱線していったので、ここまでとする。
結局、タイトルにあるサードレール(第三軌条)は全く関係無さそうってこと。でも面白いことを知れたなあ。
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(2024年9月) 英語版の「でんしゃ」こと「TRAINS」の書籍を入手できました! 表紙の車両はやはりディーゼルだと確信。電車はちゃんと「Electric train」と明確に表現されていました!このあたり日本語訳と違いますね。